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マンダラデザインアートブログのsachiです。
町田そのこの『52ヘルツのクジラたち』を読みました。
本屋大賞受賞作品。
2024年春に映画化されるとのこと。
読後メモです。ネタバレあり。
装丁の福田利之氏のイラストに惹かれ、ずっと読みたかった一冊でした。
こちらは文庫本版の表紙。可愛い……。
第1章、読み初めは何となく文体も描写も合わないかも、と感じた。
けれども最後の方は泣きながら読んで、物語を追っていた。
ストーリーの良さで読ませるものはやはりあるのだなぁ。
ちょっと書いたことがあるものだから自分は怪しげな評価目線でいつも小説を読んでいるんだ、と感じた笑
物語の強度は文章のテクニックなんぞを跳躍する。
アンさんの存在がやはり大きい。キナコ(貴瑚)への想いが悲しい。
なぜ気持ちを打ち明けなかったのか?その訳が明かされた時のやるせなさ。
アンさんなりのキナコへの愛情の示し方。辛い。読後感として一番それが大きい。
それでも救いのある作品だった。
キナコがアンさんから受け取った愛情を、まるでリレーするかのように愛(いとし)に注ぐこと。
あの夜の海に現れた鯨はアンさんだったのか?
美晴。村中。村中の祖母さちゑ。主税。琴美。その父親品城。それぞれの人間、その人生がきちんと描かれていた。
そんな中、キナコの母親がどうしてあんなふうな虐待母になってしまったのか?はあまり理解できず疑問が残った。
それにしても現代的な問題を多く孕んだ作品であった。
子どもの虐待、ヤングケアラー、モラハラ、ジェンダー、田舎の過疎まで。
窪美澄、吉川トリコなど、R-18賞出身には実力があり、読ませる作家が多いという印象がある。
マイノリティーの叫びを、ある種のクジラの発する52ヘルツで表現するなんて詩的だし切実だ。
「普通のクジラと声の高さがーー周波数って言うんだけどね、その周波数が全く違うんだって。クジラもいろいろな種類がいるけど、どれも大体10から39ヘルツっていう高さで歌うんだって。でもこのクジラの歌声は52ヘルツ。あまりに高音だから、他のクジラたちには、この声が聞こえないんだ。(略)」
52ヘルツのクジラ。世界で1番孤独だと言われているクジラ。その声は広大な海で確かに響いているのに受け止める仲間はどこにもいない。(略)
出典:『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ著( 71p)
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