『夏の庭 』 湯本香樹実 著

文学
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湯本香樹実『夏の庭 』その感想メモ。ネタバレありです。

 

 

六年生の男の子3人とひとりの老人との、こころの交流の物語。

深いテーマを孕んでいて、かつ、物語の流れがとても面白い。
気になるところもあったけれど、よくできた児童文学だと思った。

 

長く生きていると(大人であれば)分かってくるさまざまな事柄を、子どもの目線でまっすぐにとらえ表現していて、みずみずしい印象。
大人が読んでいても気持ちが良い作品だった。
そういうのっていいな。
読む世代によって、受け取り方が少しずつ違ってくるという作品。

 

とくに、廃人同然だった老人が、子ども達の存在を意識することによって、次第にいきいきとしてくる過程には泣ける。
彼らはそれを不思議に思い、「なんでだろう。変なの」と言うけれど、人間とはそういうものなのだ、と大人になった自分なら分かる。泣けるわー。

 

その老人とつき合うことによって、子ども達の目に、他のお年寄りの顔もきちんと見えてきた、というところもよかった
それ以前は、ただのくたびれた年老いた人間にしか見えてなかった人々、それが、きちんと個々人として見えるようになってきた、というのだ。

 

そういうことって分かる気がする。
対象物は同じでも、見る側が積み上げてきた時間の長さや質によって、その見え方は変わってくるということ。

 

老人の遺体を前にした彼らの感想は、真に迫っていた。
「ここにおじいさんはいない」そう思ったというのだ。

 

文章は素直で読み易く、かつ、はっとするような表現がいくつもあった。
白い日傘の婦人が来て、縁側に座った子どもが彼女を見上げるのだが、彼の目に映った光景がとても印象的。
青い空の背景、白い日傘に集められる夏の光、そこだけ空がかっきりと切り取られ、違う世界への入り口のように見えたというのである。@夏の庭。
くらくらっときた。

 

少し気になったところは。
主人公の木山が、年のわりには考え方が大人び過ぎだと思う。
老人の死に、子ども達は悲しむ。
けれども、それを受け入れようとする。
そのあたりが、理路整然とし過ぎていたように思う。
受け入れるまでのプロセスをきっちり書いていこうという意志は伝わってくるが、いまひとつ描ききれていない、と感じてしまった。

 

だって、おじいさんがお骨になって帰ってきたところで、もう納得しているんだもの。
火葬場の煙突から上る煙を見ながら

 

「さびしいのはぼくの問題だ。おじいさんは精一杯生きたのだから」

 

なんて言っている小学生(笑)。
消化、早過ぎー。
ラストまでの展開が性急過ぎて説明的になってしまったのも残念。

 

「おじいさんなら、こういう場合どう答えるだろう」
「もっと、色々なことを相談したかった」
と言うわりには、存命中おじいさんに意見を聞く、という場面が少ないのも気になった。
「あの世に知り合いがいる」という表現はいいなと思った。

 

ついでにもう一つ。
木山のおかあさんが精神的に不安定そうであったが、その原因がもっとほのめかされた方がよかっただろうと思うのは、大人な意見か?
児童文学なので必要ないのかな。
そうであったとしても、最後にそちらの事情も明らかにされた方が、作品としての完成度が増すと思った。

 

何だかんだ注文は多いですが、間違いなく名作。おすすめです。

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