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マンダラデザインアートブログのsachiです。
ドイツ最高峰の画家といわれるゲルハルト・リヒターの展示を観に、東京国立近代美術館に行ってきました。
ドイツ・ドレスデン出身の現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒター。その個展が、日本では16年ぶり、東京では初めて、美術館で開催されます。
リヒターは油彩画、写真、デジタルプリント、ガラス、鏡など多岐にわたる素材を用い、具象表現や抽象表現を行き来しながら、人がものを見て認識する原理自体を表すことに、一貫して取り組み続けてきました。ものを見るとは単に視覚の問題ではなく、芸術の歴史、ホロコーストなどを経験した 20世紀ドイツの歴史、画家自身やその家族の記憶、そして私たちの固定概念や見ることへの欲望などが複雑に絡み合った営みであることを、彼が生み出した作品群を通じて、私たちは感じ取ることでしょう。
画家が90歳を迎えた2022年、画家が手元に置いてきた初期作から最新のドローイングまでを含む、ゲルハルト・リヒター財団の所蔵作品を中心とする約110点によって、一貫しつつも多岐にわたる60年の画業を紐解きます。
棒線部(こちらで引きました)のとおり、作品のバリエーションの豊かさには本当に驚いた!
会場は特に順路を設けず、テーマや絵画手法ごとに自由に作品を見渡せるように構成されていました。
混雑もそれほどではなく、先に進んだり気になるものにまた戻ったりして時間をかけて鑑賞することができました。
撮影OKだったので、印象的だった作品を撮った写真とともにご紹介いたします。
ビルケナウ
右手に4枚の絵画《ビルケナウ》(2014)、左手に絵画を複製した4枚の写真ヴァージョンの《ビルケナウ》(2015-19)
正面には《グレイの鏡》(2019)が展示されている 撮影:山本倫子
出典:https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/top-exhibition-2022-2022-12
リヒターは、1960年代以降、ホロコーストという主題に何度か取り組もうと試みたものの、この深刻な問題に対して適切な表現方法を見つけられず、断念してきました。2014年にこの作品を完成させ、自らの芸術的課題から「自分が自由になった」と感じたと作家本人が語っているように、リヒターにとっての達成点であり、また転換点にもなった作品です。
出典:https://richter.exhibit.jp/highlights/
《ビルケナウ》は4点からなる絵画作品。
リヒターがようやくこの作品に取り組めるようになったのは、80歳を過ぎてからだという。
この作品の最下層には、アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所で密かに撮られた写真をもとに描かれたイメージがあるのだとのこと。
1944年夏に収容所の特別労務班によって撮影された、その写真の展示もあった。
作品の前に立つとリヒターの祖国への複雑な思いが伝わってくるように感じられ、なぜか鳥肌が立った。
赤い絵具が禍々しく散らばる。
リヒターはこれまでも社会的問題をテーマにした作品を多く制作していることを知った。
例えば911をテーマにした《September》や、ベトナム戦争当時に描かれた《マルクスとコカコーラ》という作品がある。
《September》(2005) © Gerhard Richter 2022
出典:https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/gerhard_richter_3_keywords
ガラスと鏡
《黒、赤、金》(1999)
色付きガラスの中に映る世界も含めて、一作品。
リヒターは1900年代末、ドイツ統一記念の新しい連邦議会議事堂に設置される巨大作品を依頼されたが、上はその試作から生まれた作品。
《鏡、血のような赤》(1991)
《鏡、グレイ》(1991)
中央に設置されている作品が《8枚のガラス》(2012)
置かれた場所やその時々によってあらゆるイメージを映し出す。それはリヒター作品の原理の一つです。
ゲルハルト・リヒター展パンフレットより
《8枚のガラス》はこちらでも観覧しました。
アブストラクト・ペインティング
《ヨシュア》(2016)
「スキージ」と呼ばれる自作の大きく長細いへらを用いて、キャンバス上で絵具を引きずるように延ばしたり、削り取ったりすることで独自の絵画を生み出す(後略)
ゲルハルト・リヒター展パンフレットより
「ゲルハルト・リヒター・ペインティング」(コリーナ・ベルツ脚本・監督/2011年/97分)
《アブストラクト・ペインティング》
力強い。色味も美しく絵の前で長いこと見とれておりました。
カラーチャート
《4900の色彩》(2007)
リヒターは2000年代には、ケルン大聖堂のステンドグラスのデザインを依頼された。
《4900の色彩》はその制作過程で生まれた作品。
既製品の色見本を偶然にしたがって配置するという。
ストリップ
《ストリップ》(2013-2016)
80歳を前にして試みた、デジタルプリントのシリーズ。
一枚の《アブストラクト・ペインティング》作品がもとになっているとのこと。
〈ストリップ〉は(中略)すべて1990年に制作された、ある一枚の《アブストラクト・ペインティング》に由来します。この絵画をスキャンしたデジタル画像を縦に2等分し続け、幅0.3ミリほどの細い色の帯をつくります。その帯を鏡写しにコピーして横方向につなげていくと、単なる色の線の集積としての横縞へと還元されます。
ゲルハルト・リヒター展パンフレットより
フォト・ペインティング
《モーターボート》(1965)
広告写真をプロジェクターでキャンバスに投影し、それを描いたとのこと。
モチーフの輪郭を刷毛でぼかすことにより、ソフトフォーカスの写真のように見せている。
1950年代末、東ドイツで活動していたリヒターが自由に惹かれ西ドイツに渡った頃から始められた初期のシリーズ。
新聞や雑誌に載っているイメージを、構図や構成に悩むことなくそのまま描くことで、画家としてのキャリアをやり直したという。
アラジン
2010年から制作され始めた、一種のガラス絵とも言えるシリーズです。何色かのラッカー塗料を板の上に乗せ、ヘラや筆でかき混ぜ、塗料の動きに任せた後、ガラス板を上から載せて軽く圧すと、ラッカー塗料がガラス面に転写されます。
ゲルハルト・リヒター展パンフレットより
このシリーズが個人的にとても惹かれました。サイケデリック。魅力的。
オイル・オン・フォト
こちらは写真に油絵具を塗りつけたシリーズ。
リヒター、本当に多方面に攻めていて興味深い!
気力に満ち満ちています。
90歳になったこれから先、また新しい試みが出てきたりしたらすごいなー。
現在は豊田市美術館に巡回中です。
(会期 2022年10月15日[土]-2023年1月29日[日])
ところで、作家の赤坂真理氏のリヒター展評が非常によかったのでここにご紹介しておきます。
氏の分析力は素晴らしい……。
「ともにカルト国家だった国の人間として〜リヒター展の消耗とやすらぎについて~」
会期:2022年6月7日(火)~10月2日(日)
会場:東京国立近代美術館
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