分厚い本であるにもかかわらず、一気に読まされた。
すごく面白かった。
犬好きの人間が犬になりたいと願い、ついにはそれが叶って本当に犬になってしまう、というところから物語は始まる。
奇想天外な設定ながら、そこから展開していく内容には深い思索が込められていて、小説という世界の力を感じた。
フサという犬になった房枝の目で見た、飼い主の梓とその家族の様子が語られていく。
それは、フサが人間であったときには予想もしなかったような凄まじさに満ちていたのだった。
フサの意識は人間のままだから、その思考を通して読者は色々なことをともに考えさせられる。
登場人物はみな魅力的だ。
特に、彬と母親の存在にはリアリティを感じる。
いるよな、こういう母子。
フサ=房枝の常識的な感性がまたとても親しみ易い。
今を生きる平均的な女性ってこんな感じだよなあ。
彼女の好みが小型犬とかじゃなくって、「普通の犬」(何の変哲もない雑種の日本犬)というところも気に入った。
自分もああいう犬が好きだ。
ちょっとなさけない感じの柴犬系雑種。
こんがり焼けた感じの茶色の背中。くるりと巻いたしっぽ。
できれば申し訳なさそうな目をしたやつがいい。
でも、犬自身になりたいと思ったことはないな。。
それにしても松浦理英子氏、よく掘り下げた。
犬を好きと言う気持ちを。
意識やたましいと身体性、セクシャリティ、愛情の本質、そして家族というところにまで敷衍して。
房枝をフサに変身させた、朱尾の謎が最後まで解明されなかった点には、おや?と思った。
影を帯びた思わせぶりな不自然なふるまいの描写がところどころにあったのだけど、、続編とかあるのか?
読んでくださってありがとうございます!
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