こんにちは。マンダラデザインアートブログのsachiです。
村田沙耶香の「生命式」を読みました。
今日はその感想を書きたいと思います。
Contents
「生命式」が凄まじかった!村田沙耶香の魅力とは
「正常は発狂の一種」。何度でも口ずさみたくなる、美しい言葉。
――岸本佐知子(翻訳家)
自分の体と心を完全に解体することは出来ないけれど、
この作品を読むことは、限りなくそれに近い行為だと思う。――西加奈子(作家)
本の帯には、著名人の推薦文とともに「文学史上、最も危険な短編集」というキャッチコピー。
「生命式」には、表題作ほか全部で12編の物語が入っている。
村田沙耶香の本は「コンビニ人間」「地球星人」「消滅世界」などを読んだけど、ほんとうに面白い作家だなと思う。
たいへん変わってる、と言うか、もういろいろ振り切ってるという印象(笑)
現行の文明や常識にとらわれない、清々しいほど狂った世界を生き生きと描き出す。
今回も本を開いて2ページ目でもう、職場内女子のランチタイムのおしゃべりで
「先輩って人肉食べない人なんでしたっけ?」
みたいな台詞が出てきて度肝ぬかれた 笑
また、その世界の中で疑問などを感じつつも、我々のように普通に生活している登場人物は健気で愛おしく、読み進むにつれ彼女らに対しての親しみが深まっていく。
こんな異常な世界でよくもまあ日々頑張っているよな、いじらしいなって。
「生命式」のあらすじをざっくりと(ここからネタバレ)
「生命式」の世界では、人が死んだとき遺族はその人を調理し、親戚や友人などにふるまうのが当たり前とされている。
(普通の葬式をする人もいるにはいるけど、「生命式」だと国からの補助金が出るとのことw)
「私が小さいころは、人肉は食べてはいけないものだった」のに、ここ30年間で世間の価値観が激変し、主人公の池谷真保は「世界に裏切られたような気がする」と感じている。
「わかるー。人肉を食べたいと思うのって、人間の本能だなぁって思うー」
おまえら、ちょっと前まで違うことを本能だって言ってただろ、と言いたくなる。本能なんてこの世にはないんだ。倫理だってない。変容し続けている世界から与えられた、偽りの感覚なんだ。
池谷真保の心の声だが、このくだりには、そこはかとなく共感してしまった。
自分がいま生きている世界でも、それが当たり前とされていることに、何でそうなの?と思うことが多々あるから。
また、セックスという言葉を使う人はいなくなり、「受精」と言う妊娠を目的とした交尾が主流である世界になっており、「生命式」では死んだ人間を食べながら、「受精」の相手を探すという目的もあるのだった。。
ひーーーー!(((( ;゚д゚))))
登場人物の山本の語りが良い
池谷の友人・山本の語る台詞がとても味があり、良かった。
彼は池谷の飲み仲間で、3つ年上の39歳、小太りの男。
変わっていく世の中を愚痴る池谷に、山本は言う。
「世界はさぁ、鮮やかな蜃気楼なんだよ。一時の幻。いいじゃんか、今しか見ることのできない幻を、思いっきり楽しめば」
ディズニーランドについては、
「あそこってさぁ、だれも、着ぐるみの中の人の話しないじゃん。みんなが少しずつ嘘をついているだろ。だから、あそこは夢の国なんだよ。世界もそれと同じじゃない?みんながちょっとずつ嘘をついてるから、この蜃気楼が成り立っている。だから綺麗なんだよ。一瞬のまやかしだから」
などと語る。
池谷が気を許し、自分の思いの丈を吐き出せるのは、彼だけだった。
なのに、その山本がある日、唐突に死んでしまう。
え。池谷、お気の毒…。と感じ入ったのもつかの間。。
そして山本の生命式
山本が急逝したとの連絡を山本母から受けた池谷は、彼の生命式の準備手伝いをかって出る。
参列者にふるまうために、仲のよかった山本の死体を調理するというのだ…(クラクラ)
山本のルーズリーフにはなんと、自分が死んだときにはこう料理してほしいというレシピがあった。
それは、
「俺の肉団子のみぞれ鍋」
「俺のカシューナッツ炒め」etc…
村田沙耶香ワールド炸裂。。(笑)
業者が精肉した山本が届くと、池谷は山本母・妹とともに、テキパキとそれを捌いて調理する。
山本の腕は巨大な手羽先という感じで、肉を削ぎ落とすのに苦労した。骨だけになった山本を発砲スチロールに戻し、肉をフードプロセッサーに入れて挽肉にしていく。それだけでは間に合わないので、横で母親が包丁を使って山本の挽肉を作っていた。
山本をボウルに入れ、片栗粉、玉葱、酒などを加え、二人で捏ねていく。
読んでいて、なんだか笑えてきた。
ここまで突き抜けた緻密な描写を、ここまでドライにされたらもう、深刻な顔をしている方がかえって馬鹿みたいじゃないか。。
お気の毒に…と感じていたさっきまでの自分や、面倒なわだかまりなどに振り回される我が日常を笑い飛ばしたい境地になっていく。
ラストシーンは厳かなながめ
山本の生命式を終えた後、池谷は海に向かう。
夜の海の描写はとことん美しかった。
生命が海から地上へと出てきた古代の光景のようだった。見たこともないその日がすごく懐かしい、大切な思い出のように思えて、私は瞬きもせず白い影と黒い波を見つめた。海を懐かしいと言った山本の気持ちが、少しだけわかる気がした。
夜が深まって、空も海も漆黒だった。山本の命がゆっくりと私の肉体に吸収されていく。
そうか、彼女はさっき山本を食べたんだった。
山本は池谷の中で染み渡るように、じょじょに血となり肉となっていく。
美しい光景にのせられて、うっかり
「生命式… なかなかに素晴らしい慣習なのかも?」
などと感じさせてしまうかもしれない、村田沙耶香の力技。。
村田沙耶香はやっぱり異色の作家!
村田沙耶香の作品は、我々が「考えるまでもない」「それが普通」と思って疑うこともしない事柄や価値観に対して、強い疑問符を叩きつける。
たとえ、それが人間の「本能」とされている領域であっても容赦などしない。
自分の考えが石頭みたいにカチコチだなーと感じたときには、彼女の作品世界にトリップするのがよいかも!旅を終える頃にはきっと、少しだけ柔軟な頭になっていると思う。
村田沙耶香は誰にも似ていない、唯一無二の作家だと思う。
人生の流れを変えたい時には、村田沙耶香を読むのがおすすめです!
ちなみに同時収録の短編「素敵な素材」では、死んだ人のからだのパーツを素材にしたプロダクトが、普通に流通している世界が描かれています。
高級品とされる人毛ニットに関する女子トークがあったり、死んだ義父の皮膚でできたウェディングベールを巡り、結婚式を控え葛藤する男女の姿があったり 笑
他には「魔法のからだ」が、ピュアで鋭利な感覚で書かれていて、とても好きでした。
今の中学生に読んでもらいたいな。
*こちらのインタビューがとても興味深かったです。(西加奈子氏との対談)
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